通常の呼吸は不随意運動といわれ、脳の調節中枢によって生命維持のため無意識に行われます。
浅い呼吸は、なぜ悪いのか
加齢とともに無意識下で行われる呼吸は浅くなるといわれていますが、呼吸筋(主に肋間筋や横隔膜)といわれる、胸郭を動かすための筋や肺活量の衰えも関係しています。
呼吸が浅くなると、換気=必要な酸素を取り込むことが上手くいかなくなり、代謝が落ちることで、自律神経の乱れ、睡眠の質の低下、疲れやすい、肩こり・首こり・腰痛などの身体のこわばり、脳の酸欠により集中力が低下する、肌の老化(くすみ・シミ・しわ)などのような悪影響があります。
適切な呼吸による効果
「呼吸」は身体の新陳代謝、自律神経の調整、免疫力の強化、pHバランスの維持、そして精神的な健康を保つために欠かせないプロセスです。適切な呼吸法を意識することで、心身の健康を支える多くの効果を得ることができます。
酸素供給とエネルギー産生(代謝)
酸素を体に取り入れ、二酸化炭素を排出するプロセスです。酸素は、体内でのエネルギー産生に欠かせない役割を果たします。細胞がエネルギーを作り出すためには、酸素が必要であり、これがミトコンドリアでの**ATP(アデノシン三リン酸)**の産生に関与しています。酸素が十分に供給されることで、体が効率的にエネルギーを生産し、体温の維持や活動力の源となります。
自律神経系の調節
呼吸は自律神経系のバランスを整えることにも重要です。呼吸が速くなると、交感神経が刺激され、心拍数や血圧が上昇し、戦闘モードに入ります。一方で、ゆっくりと深い呼吸は、副交感神経を刺激して体をリラックスさせ、ストレスホルモンの分泌を抑え、心を落ち着かせます。特に、深い腹式呼吸は副交感神経を活性化し、心身のリラクゼーションを促すことが科学的に証明されています。
免疫機能の向上
正しい呼吸は、免疫システムにも影響を与えます。深い呼吸をすることで、体内の酸素供給が最適化され、細胞の代謝が活発になり、免疫機能が強化されます。研究によれば、リラックスした状態で行われる深呼吸や瞑想などの呼吸法は、ストレスホルモンの分泌を減少させ、免疫系を強化し、病気や感染症への抵抗力を高める効果があるとされています。
pHバランスの調整
呼吸は血液のpHを調整する重要な役割を果たします。私たちが呼吸を通じて二酸化炭素を排出することで、血液中の酸性度が調整され、体の酸-塩基バランスが維持されます。過呼吸や浅い呼吸によって二酸化炭素が過剰に排出されると、呼吸性アルカローシス(血液がアルカリ性になる状態)を引き起こし、めまいや手足のしびれなどの症状を引き起こす可能性があります。適切な呼吸を保つことは、このバランスを維持するためにも重要です。
メンタルヘルスへの影響
呼吸は精神的な健康にも密接に関係しています。適切な呼吸法を用いることで、ストレスや不安を軽減し、リラクゼーション効果を高めることができます。科学的な研究では、深い呼吸や呼吸を意識的に整える瞑想法が、うつ症状の軽減や精神的な落ち着きを促進する効果があることが示されています。これにより、心身ともに健康を保つための自然な方法として、呼吸法が広く取り入れられています。
美容にも効果大!息を吐き切る深呼吸
息を意識的に強く吐き出すことは、肺機能の改善、呼吸筋の強化、ストレス軽減、気道の浄化などの健康効果が期待でき、特に呼吸器疾患を持つ人にとっては有効な方法とされ、健康な人でも日常生活での呼吸効率の向上やストレス解消、そして基本のエイジングケアとしても役立ちます。いつどこでもタダでできる美容法です。
手軽にできる呼吸法の手順を以下に説明します。※秒数や回数は無理のないよう調整してください。
- リラックスして軽く背筋を伸ばした姿勢になります。座っていても立っていてもOK.
- 両手で肋骨を軽く絞るように、お腹をしっかり引き込みながら「もうこれ以上出ない」というところまで息を吐きだします。(4~7秒)
- そのまま無理がなければ1~2秒呼吸を止めます。
- たくさん吸おうとせずに自然に入ってくる息を吸い込み、ゆっくりとお腹を膨らませます。(3~5秒)
- この呼吸を5回~10回ほど繰り返します。
どうでしょうか。肩の力が抜け背中も楽になっていませんか?
普段から慢性的な肩こりなど緊張状態が続いている方は、この呼吸を繰り返すだけでも楽になるかと思います。
難しい場合は、セルフケアのひとつとしてサロンでも指導しておりますので、お気軽にご相談ください。
肺機能の改善
肺の中に溜まった残留空気を効率的に排出し、肺の換気効率を高めます。特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患では、強制呼気を用いた呼吸法(例えばパースドリップ呼吸法)が、呼吸困難を軽減し、肺機能を改善するために推奨されています。強制的に吐き出すことで、肺の空気の入れ替えが促進され、酸素の供給がより効率的に行われます。
呼吸筋の強化
息を吐き切ることで呼吸に関与する筋肉、特に横隔膜や腹筋を強く使うため、これらの筋肉を鍛える効果があります。強制呼気を行うと、腹筋や肋間筋などの呼吸筋が活性化され、長期的にはこれが呼吸力を強化する助けとなります。強い呼気を繰り返すことで、呼吸筋がトレーニングされ、日常的な呼吸をより楽に行えるようになるとされています。
ストレス軽減と自律神経の調整
強制呼気には、副交感神経を刺激する作用があり、体をリラックスさせる効果があります。深い呼吸や強制的な呼気を通じて、副交感神経の働きを高め、心拍数を低下させ、リラックス状態を促進します。これは特にストレス管理や不安症状の軽減に役立ちます。
気道のクリアランス
気道に溜まった余分な粘液や異物を排出するためにも役立ちます。強く息を吐き出すことで、咳を助け、痰や異物を効果的に排出することができ、気道をクリアに保つことが可能です。これは風邪や気道感染時に役立ちます。
深呼吸で、まず息を吸いがちな理由
深呼吸というと、一般的に吸う動作に意識が向くことが多いです。
これは新生児が母乳や哺乳瓶からミルクを吸うための本能的な吸啜(きゅうてつ)反射という反応と関わっており、生命維持に不可欠な行動です。この反射は、呼吸とも密接に関わっています。新生児はまだ呼吸と飲み込む動作を同時に行う能力が未熟ですが、吸啜反射を通じてこの協調を学びます。
深呼吸では、以下のような理由で吸気に意識が向かいやすくなりますが、呼吸全体のリズムやバランスを考慮することが、健康的な呼吸法の習得に役立ちます。
吸気に関連する感覚の強さ
- 吸う感覚が目立つ: 吸気(息を吸うこと)は、肺を大きく膨らませ、胸や腹部が拡張するため、体に感じられる感覚が強いです。このため、吸う動作に自然と意識が集中しやすくなります。反対に、呼気(息を吐くこと)は空気を外に放出する比較的受動的な動作で、感覚が弱く感じられることがあります。
酸素を取り込む重要性
- 酸素を供給する役割: 吸気は酸素を体に取り込み、血液中に供給する重要な機能を担っています。このため、吸うことに焦点が当てられがちです。呼吸を意識するとき、私たちは無意識に「酸素を取り込まなければ」と感じ、吸気に意識を向けることが多くなります。
自律神経系の調整
吸気と交感神経の刺激: 吸う動作は交感神経を刺激し、身体を活動的な状態に保ちます。これがストレスや緊張状態の際に、吸うことに強く意識が向きやすくなる理由です。一方、呼気は副交感神経を刺激し、リラックス効果をもたらしますが、吸うときの体の反応が強いため、吸気に集中しやすい傾向があります。
軽度の過呼吸を繰り返しやすい方へ
上記で説明した「息を意識的に強く吐き出す呼吸法」を試してみてください。
過呼吸は、呼吸によって過剰な二酸化炭素が排出されることで、血液がアルカリ性に偏る状態を指します。これが起こると、血液中の二酸化炭素濃度が低下し、pHが上昇して正常範囲を超えてしまいます。
過呼吸(呼吸性アルカローシス)の原因
呼吸性アルカローシスは、通常、過呼吸(呼吸が過度に速く、深くなる状態)が主な原因です。過呼吸により、体内の二酸化炭素が過剰に排出され、その結果、血液中の酸の濃度が減少します。具体的な原因としては以下が挙げられます:
- 不安やパニック障害:強いストレスや不安で呼吸が速くなる。
- 高所環境:酸素が薄い環境で呼吸が促進される。
- 発熱や感染症:呼吸中枢が刺激され、呼吸が速くなる。
- 薬物や中毒:呼吸を刺激する薬物が呼吸を速めることがある。
過呼吸の症状
呼吸性アルカローシスが起こると、体は以下の症状を示すことがあります:
- めまい
- 手足のしびれやチクチク感
- 筋肉のけいれんや硬直
- 息切れや呼吸困難感
- 不安感の増加
これらの症状は、血液中のカルシウムやカリウムなどの電解質バランスの変化が影響しています。特にカルシウムが減少すると、神経や筋肉の過敏性が増し、けいれんなどが引き起こされます。
過呼吸の治療と対応
呼吸性アルカローシスが軽度であれば、呼吸を落ち着けることで自然に改善することが多いです。特に、不安やパニックによる過呼吸が原因の場合、紙袋呼吸などで二酸化炭素を再吸入させることでpHを正常化させることができます。
重症の場合、原因となる病態(感染症、発熱など)の治療や、酸素療法が必要になることもあります。
過呼吸の予防
- ストレスや不安を管理するために、リラクゼーション技術や瞑想、呼吸法を取り入れることが役立ちます。
- 持続的な過呼吸のリスクがある場合、医師の診察を受け、根本的な原因を治療することが推奨されます。
呼吸性アルカローシスは一時的なものが多く、正しい対処を行えば速やかに改善することができますが、繰り返す場合は専門医の診断を受けることが重要です。